Doctor’s Blog About Brain And Heart

”脳と心” の関係について

【ヒトの発達過程における概念変容】

 分自身が,大きな自転する球体に乗っかっていることを,あなたはいつ知っただろうか?今初めて知った人もいるかもしれないが,人類がそれに気づいたのでさえ500年程前というごく最近のことなので,そこまで落ち込まないでほしい.私は幼稚園に通っていた頃,祖父母に福岡県八女市星野村に連れて行ってもらい,そこでその驚愕の事実を知った.様々な展示物を見ながら,祖父に説明してもらったのを今でも覚えている.

 このように,我々は元々持っている概念を,外界から得られる情報をもとに柔軟にアップデートしていく.その過程を心理学では概念変容と呼ぶ.そして元々知っていた,日常経験の中で獲得された知識のことを素朴概念,科学的理論によって体系づけられた知識を科学的概念と呼ぶ(素朴概念を包括する思考の枠組みを素朴理論と呼ぶ).

 冒頭で述べたように,地動説が広く受け入れられたのは今から約500年前であり,ガリレオをはじめとした科学者がその天才的な頭脳と血の滲む努力で真なる事実を導いてくれた.しかし我々が皆ガリレオのように,科学的知識をもとに推論し,新しい概念を獲得できるわけではないし,もしできるとしても一生のうちにそれが達成される可能性は低い.して,他者からの言語的伝達や関わりをもって新たな概念を学習する必要があり,これを社会的学習と呼ぶ.また,自身の持っている知識を他者のそれと照らし合わせ,長期に渡って関連づける過程を知識統合と呼ぶ.

 

 し かし,他者からの情報提供や外界における現象の観測をもって,まるで絵の具を混ぜたように即時的に概念が塗り替えられるわけではない.皆さんも幼い頃は指を使って数を数えていただろうが,徐々にそんなことをする必要がなくなってきただろう(まだ指を使っている人がいたら申し訳ない).その変化はある日ある瞬間,突然訪れるものではなく,数の概念の獲得などをもって徐々に為されるものなのだ.

 ではそのような漸次的な変化をどのように研究するか,というのが心理学者にとっての問題だが,そこで用いられるのがマイクロジェネティックアプローチ(微視発生的方法)だ.

 例えば足し算の課題を解く際に,どのような認識をもってそれが為されるのか,4歳児を対象に研究を行う際,週に3回,数ヶ月に渡って,どのように考えてその答えにしたのかを説明してもらい,数に対する概念変容を測定する.このような高密度で長期間な研究が,マイクロジェネティックアプローチでは行われる.また,指を使っての数え上げ(計上)と内的な計上 等がどれくらいの確率で使用されたかによってグラフを描くと,いくつものグラフが重なり合い,最終的に最も効率的・効果的であると判断された方略が残るという重なり合う波のモデルが現れる.