Doctor’s Blog About Brain And Heart

”脳と心” の関係について

【早期選択説と後期選択説の相違について】

 我 々はざわついた喧騒の中でも,話し相手の声に選択的に注意を向け,その発言内容を正確に認識することができる.心理学ではこのような現象をカクテルパーティー効果と呼ぶ.このような外界からの情報の取捨選択は,人間の情報処理過程のどの段階で行われるのだろうか.この議論に対しては大きく2つの仮説が存在する.

 ひ とつは早期選択説である.この仮説では,情報の取捨選択は初期に行われるとされ,注意を向けなかった情報に対しては物理的,あるいは感覚的水準までしか処理されないとしている.もう一方は後期選択説である.この仮説では,情報の取捨選択は後期に行われる,つまり注意を向けていない情報に対しても処理が為され,その上で選択が行われていると考える.これらの仮説について以下のような具体例を想定してみよう.

 人 間の注意の研究に関して,両耳分離聴という,両方の耳それぞれに異なる聴覚情報を入力する実験がある.例えば右耳と左耳に異なるメッセージを入力し,右耳から聞こえるもののみを追唱するように指示したとしよう.そして左耳に入力する音声を男性のものから女性のものにいきなり切り替えたとき,被験者は左耳には注意を向けていないが,音声が切り替わったことに気づくだろう.これは単に音声の変化という物理的変化に過ぎないため,早期選択説を支持していると言える.

 次 に騒がしいパーティ会場を想像してみてほしい.あなたは話し相手の声に懸命に耳を傾けて話を聞いているため他の声は耳に入らない.しかし唐突に自分の名前が呼ばれたことに気づき,その声の主を探す.この場合突然耳に入ってきた音声情報を処理し,その意味を理解した上で選択的に認識したと考えられるため,後期選択説を支持していると言える.

 上 記例を踏まえ,人間の情報の取捨選択がどのように行われているかに関して,2つの仮説を二者択一的に解釈するのではなく,人間の情報処理過程の複数の段階でそれが生じうるのだと柔軟に理解することが適切であると言えよう.