Doctor’s Blog About Brain And Heart

”脳と心” の関係について

【顔認知の特異性と神経生理学的見地からの考察】

 々人間は ”顔” という様々なパーツの集合,つまりはパターンを瞬時に認識し,人物の同定の他,性別,年齢,表情による感情の推測など様々な処理を行うことができる.この複雑にして極めて高度な処理を特に ”顔認知” と呼ぶ.

 の活動として顔認知は,他の三次元物体と同様にまずV1での周波数や傾きの処理,その後のパターン認知的処理を終え,顔特有の処理を行うとされている.顔認知に関係するとされる脳部位としては,FFA(face fusiform area)や,特定の表情の認知に関わるとされる扁桃核などが挙げられる.

 カクザルニューロン反応を測定する研究では,大脳下側頭連合野(IT)や上側頭溝(STS)に個人の同定や視線変化に応答するニューロンが観測され,顔の認識に固有な独自の処理系が存在することの重要な証拠となっている.

 認知の特異性について,事故や手術によって脳の一部が損傷した患者から得られたデータによってこれが明らかにされたケースがある.脳の損傷によって三次元物体や文字の認識が阻害される失認症のうち,その対象が人間の顔である場合を相貌失認と呼ぶがこれは当初物体認知障害の一部であると考えられていた.しかし,顔に対する認知能力に著しい欠陥が見られながらも他の物体に関しては高い水準で認知能力が保持されている症例が報告され,その中でも既知の人物の同定にのみ障害が見られるケースや表情認知にのみ回復が見られないケースなどが存在し,これらは顔認知の理論的枠組みを説明する上で大きく貢献した。

 認知のうち,特に人物同定過程に関して,V.ブルースA.ヤングの顔の情報処理モデルがよく知られており,顔の人物同定処理とその他の情報処理(発話や表情等)が別のモジュールによって処理されると仮定している点や人物同定の過程が系列処理として示されていること等が特徴として挙げられる.このモデルに関してはカプグラ妄想に関連して ”既知情報に対する情動反応も構成要素として組み込むべきである”との指摘が為されている.カプグラ妄想とは,ドーパミン過少が原因とされる症状で,既知の人物の顔を見ても ”知っている誰かにとても似ている” という報告はするが,それが誰かという既知性に確信が持てない.生じるはずの皮膚コンダクタンスが生じないという研究結果もある.