【データ駆動型処理と概念駆動型処理の差異,及びその相補的作用について】
データ駆動型処理(ボトムアップ処理)とは,あくまで外界からの入力刺激を解釈することで終了するような処理である.知覚した情報を処理することにより生起し,対象の物理的特性に大きく影響される.
概 念駆動型処理(トップダウン処理)とは,個人の有する経験や知識,状況の文脈的知識によって為される解釈に始まり,入力刺激を明らかにしようとする処理である.これは個人に認められる前提条件により大きく影響される.
具 体例を用いて説明してみよう.暗い道を歩いていて,突然何かの影を見たとする.このとき, 何も知らない人はその影の大きさや形を見て 人か?動物か?と,その影の正体について様々な憶測を巡らせるだろう.リアルタイムに観測している情報をもとに推測を行っているため,これはデータ駆動型処理にあたる.しかし事前に ”この辺りは熊が出るらしい” という噂を聞いていた人であれば,その影を見たときに うわ!熊だ!と驚くだろう.事前に持っていた知識をもとに対象を推測しているため,これは概念駆動型処理にあたる.
これら2つの処理に関して,二者択一的に論じることは不可能である.例えば外界の知覚に際し,対象の知覚条件があまり良くない(暗かったり,ぼやけたりしている)場合,データ駆動型処理は正確性を欠く.一方過度に概念駆動型処理に依存してしまうと,個人の偏見に大きく処理内容が左右されてしまうことになり,これも正確性を欠く.どのような状況でも正確に外界を知覚するためには,2つの処理を複合的に用いる必要があるわけだ.
U. ナイサーはこれら2つの過程を統合した知覚循環モデルを提案した.このモデルでは,蓄積された経験や知識によってスキーマが形成され,そのスキーマによって外界の知覚(データ収集)が為される.これがトップダウン処理に相当する.そして対象の物理的特性を分析することによって解釈がなされ,既存のスキーマに修正が加えられる.これがボトムアップ処理に相当する.我々が外界を知覚する際にはこの過程が繰り返されることになる.